――まずは「METAL BUILD DRAGON SCALE」についてお聞かせください。
小西:METAL BUILDのスピンオフブランドになります。そもそもMETAL BUILDはロボット系キャラクターを立体ならではのアレンジをしつつ、金属の素材感や塗装、ギミックにこだわり抜いた最高峰のダイキャスト完成品フィギュアですが、DRAGON SCALEではよりトイ的なギミックにこだわっています。例えばアニメーションにおいて、メカデザインの枠を飛び越えて、外連味のあるアクションをしますよね。このアクションポーズを立体物として再現すべく、機構や内部構造をさらに突き詰めています。可動のための外装など、説得力のあるアレンジ、デザインも特徴のひとつです。
――アレンジについてお聞かせください。
小西:「コードギアスシリーズ」のメカであるナイトメアフレームは、設定としてはリアルロボットの延長戦上に存在しますが、ランスロット・アルビオンは劇中で従来のナイトメアを凌駕した、ある種スーパーロボットに近い存在として活躍します。
さらにデヴァイサー(パイロット)の枢木スザクは人間離れした戦闘力をもったキャラクターであり、彼の愛機ランスロットシリーズもまるで人そのもののような躍動感ある格闘戦で戦場を支配します。まさに人体の延長のような動きを再現する、どれだけ自然な可動表現ができるか、そこに重点を置いてギミックを盛り込みました。アレンジは、アクションポーズのための可動、ギミックからの逆算ですね。ランスロット・アルビオンはスザク自身が投影されている印象が強いのでスザクの体術を再現できるように。それこそ人体可動を自然なフォルムで再現できる立体物としてのアレンジがコンセプトです。
――おすすめのポーズはありますか?
小西:ランスロットらしい派手な蹴り技と発進ポーズですね。ランスロットの蹴りポーズをこれほど自然な動きで再現できる立体物は、これまでなかったと思います。可動外装と内部構造を組み合わせることで、マシンとしてのフォルムを逸脱せずに人体のような柔らかな動きを再現できます。太腿関節、内腿の連動可動のほか、外腿の装甲にせり上がり可動を採用することで、脚部全体の可動域を確保しました。
▲開脚すると外腿の装甲が開く
▲膝周囲に連動構造を取り入れる事で自然に人体レベルの可動を再現
▲劇中でも印象的なランスロット・アルビオンの蹴りポーズ。これまでの立体物では比較的直線的なラインだったが、DRAGON SCALEでは人体のような柔らかな曲線ラインを描いている。
――内部構造について詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか?
小西:足首はダイキャストフレームを2節組み合わせることで、前後可動含めて、可動域が向上しています。ナイトメアフレームらしいランドスピナーに重心を置くスケート選手みたいなポージングが設置性含めて、とても綺麗に決まります。なので、アクションフィギュアでの表現が難しいランスロットの発進ポーズもとても自然に再現できます。膝曲げ時、ヒザ裏などの収斂機構により、膝立ちやつま先立ちもどの角度から見ても破綻のないフォルムでポージングできますよ。
▲KMFらしいローラーアクションに拘った足首関節
▲ランスロット系列機ならではの発進ポーズ。足首の可動域の広さもあり、ローラーとともに高い接地性がある。特に顔とコックピットの配置は、内部ギミックにより劇中シーンのイメージを再現。
――脚部以外の機構はいかがですか?
小西:上半身とコックピットですね。この発進ポーズを劇中の作画のように再現しようとする場合、これまでの立体だとコックピットと頭が干渉してしまっていたんです。DRAGON SCALEでは干渉を避けるため、背中内部にクランクを搭載して、コックピットブロックが下がるようにしています。で、コックピットは下がると、自然に首回りの装甲がせりあがることで、干渉防ぎつつ、美しい姿勢で顔が前を向いている発進ポーズが再現できるようになっています。で、それと両立しなくてはならないのがエナジー・ウイングを展開した空中ポーズ。作画上だと、必ずコックピットが頭より上に配置されているんですよ。どちらのポーズも決まるように、空中ポーズではコックピットを上げたら頭が下がり、発進ポーズではコックピットを下げたら頭が上がるようになっています。
▲ランスロット・アルビオンの空中ポーズ。コックピット位置が上がると、首位置は下がる。
――ポージングの自由度はかなり高いようですね。
小西:企画担当は工場からきたトライ品が仕様通り遊べるか検証を行うのですが、色々なアクションが楽しめるので、つい夢中になってしまい半日ほど遊んでいました。
もちろんエナジー・ウイングも、いろんなシルエットが再現できる機構にアレンジしているので、シルエットを色々変えていただくだけでもとても楽しめる商品になっていると思います。
――オリジナル機構についてお聞かせください。
小西:コックピット両サイドにあるMVS(メーザーバイブレーションソード)鞘の基部にダイキャストフレームの可動アームを採用しています。これにより今までの立体物ではできなかった抜刀ポーズ、DRAGON SCALEならではの騎士らしいポーズが取れます。
▲MVS用アームは堅牢なダイキャスト製
あとスーパーヴァリスですが、劇中だと手に持ったまま出撃するため、使用していない時はどのように装備しているか分からないんですよね。今回は腰後ろに懸架できるオリジナルパーツをデザインしました。こちらもアームとなっており、装着したまま前方に展開も可能です。ランスロット・アルビオンTVシリーズでブリタニア最高の性能を誇る機体なだけにきっと多彩な運用方法を見越して開発されていたはずなので、その辺りにもユーザーさんが作品に“想い”を馳せられるようなギミックを追加しています。
▲MVSを腰裏に装備可能。また腰脇に添えられるオリジナルギミックを採用
――エナジー・ウイングについてはいかがですか?
小西:劇中のシールド状態のように前方へ展開させるとき、翼のフレーム基部とともにMVSの鞘の基部が前にスライドすることで、干渉しないようになっています。また、今回バンダイナムコフィルムワークス様の協力により、攻防と飛行能力を併せ持つエナジー・ウイングに、エナジーの消費を抑える為、飛行のみに特化した「フロートモード」を新設定しています。こちらはまさに、旧世代KMFのフロートユニットに近いスケール感となっています。
――ディスプレイ時に大・小が選べる仕様ですね。
小西:エナジー・ウイングは最大の特徴なので、縮小せずにしっかりと作り込みたかったんです。ただ、METAL BUILDのスケール感だと翼長650oと非常に大きいサイズになりますので、本体のギミックを遊びつくしてもらう際には少々難儀してしまう。そういう時に今回のエフェクトを装着する事でよりお客様の遊びの幅を増やせるとも考えました。
▲小型のエナジー・ウイングを装備。劇中にはない市街地戦をイメージしたポージングなども楽しめる。
――カラーリングでもアレンジはあるのでしょうか?
小西:ランスロット・アルビオンの魅力をより引き出すために、METAL BUILDならではの塗装、素材表現でアレンジを加えています。例えば翼のフレームや本体の足首、股間節、手首等のダイキャスト箇所にゴールドメッキを取り入れる事で金色の比率を増やしています。
――配色はだいぶ苦労されたのでは?
小西:ディテールやパネルラインの情報量が増えているため、もちろん配色アレンジのパターンは無限に存在します。企画担当が本体の設計をしていくなかで配色に関する初案を考えるのですが、そちらを叩き台としつつも彩色師様が大幅な改良を行ってくださっております。様々な金色を使い分けた仕上がりはバランスを誤るときつい印象にもなりかねないと思いますが、デコマスが初めて届いた瞬間その美しさに見惚れてしまいました。もちろん動かしてギミックを味わってほしい商品ですが、眺めているだけでもとても満足できる仕上がりになると思います。
――本来、白金はバランスが難しいはずなんですけどね。
小西:そうですね。ランスロット・アルビオンは白と金の表現方法や狙いが全体の印象を大きく左右するので、特にこだわって頂きました。ホワイトはこのサイズ感だからこそ表現できる情報量を最大限発揮するために色味と質感を3パターン使い分けています。パールカラーにより影や光の当たり方次第で印象の変わる彩色表現はランスロット・アルビオンやスザクの「正道たる騎士」の側面、そしてゼロ・レクイエム実現のため「暴走した正義」の側面。その二面性を立体物として表現する事を狙っています。ゴールドも、彩色部分はフレーム部分には暗い金、装甲部分は濃い金、エングレービングは明るめの金と部位毎に説得力が出るように解釈し色分けしています。さらにダイキャスト箇所も兵器としてのリアリティを生み出すガンメタル、ナイトオブゼロの機体として「威力」を誇示する装飾のゴールドと異なるアプローチで2色を採用しています。更にDRAGON SCALEのコンセプトである可動、ギミックをより楽しんでいただくために、可動させる事で見えてくる内部フレームや外装の質感、色味を変更しております。「手に取って動かした際の感動や発見をプラスする彩色表現」は彩色師様が非常にこだわって下さいました。加えてオプションパーツも最高峰の完成品ならではの表現を取り入れています。例えばスーパーヴァリス。こちらもオリジナル設定の色味から、今回の全体像にマッチするよう配色をアレンジしています。「正義を遂行するための武装」としての配色と恐怖を与えるような「強すぎる兵器」としての印象を両立させる事を心がけています。カラーコーディネートと可動ギミックが最高峰のレベルで融合する事でお互いの表現をさらに高め合っている。それもMETAL BUILD DRAGON SCALEならではの魅力だと思っています。
▲ランスロット・アルビオンの配色検討用資料。紫で図示されている箇所はダイキャストを想定。極端な色味で配色されているのは配色バランスを確認するため。最終的な商品画像と比較すると、彩色の過程での大幅な変更をなされた事が分かる
――デザインアレンジはMETAL BUILDをはじめとする多くの立体を担当しているアストレイズの新谷さんですよね。
小西:新谷さんには、まず前後の立ち絵と、取らせたいギミックを図示してもらいました。それをベースにまず外観を立体化し、簡易可動を入れて、そこから機構をフィードバックしながら開発しました。羽の展開機構、膝の可動などの構造案を反映したデザインを出してもらって、そこから当初は採用していなかったギミックなども含めてデザインを盛り込んでいきました。DRAGON SCALE はギミックで新しい価値を盛り込む事を念頭に置いて開発しているため、ナイトメアフレームのデザインを多く手掛けていつつ、多くの玩具を世に送り出されてきた新谷さんのアイディアはとても有難かったです。
▲新谷氏よる初期デザイン。ここからギミックの追加とともに、ディテールも追加されている。
――ディテールについてはかなりやり取りがあったようですね。
小西:パーツを出力するたびに、ここにディテールが足りないので……みたいな作業が発生しています。元々、全体のデザインをギミック面から作り起こしていったところもあり、ディテールの反映は最終的な作業でした。彩色上どうなるかも想定しながらこういうディテールが欲しいと、その都度都度で追加してもらっています。構造面も苦労していますが、ディテール面でもひとつひとつのパーツを間延びさせないように、かなり長い時間をかけて調整しました。またキャラクターの芯となる部分から逸脱しないようバンダイナムコフィルムワークス谷口さんに監修頂きながらアレンジのバランスを調整していきました。
▲新谷氏によるMVS用鞘の機構デザイン案。抜刀ポーズの再現、干渉しない鞘の置きどころを念頭にアレンジデザインとして導入された。
――あらためて今回のDRAGON SCALEの魅力についてお聞かせください。
小西:やはりパーツ数、造型面のディテール、そして彩色と、最高峰ブランドのMETAL BUILDだからこそできる表現は盛り込まれています。メッキ部分もゴールド、ガンメタルなどランスロットらしい豪奢な意匠の部分とメカニカルな意匠の部分でカラーリングを使い分けるなど、ハイエンドブランドだからこそできる表現を見てもらいたいですね。
――開発において特に苦労された箇所はありますか?
小西:膝ひとつ曲げる機構にしても、シンプルな軸からいかに自然でありながら、可動させたユーザーさんに楽しんでもらえるか、「こんなギミックが入ってるのか」と驚いてもらえるにはどうしたらいいのかを突き詰めていくことは、なかなか難しかったです。それこそ自分でも取らせたいポーズがあり、プロポーションはもちろん、ファンのイメージを損なわずに両立させるのは、劇中であれだけの動きをするランスロット・アルビオンだからこそ悩みましたね。
▲膝可動ひとつとってもこだわりの構造が盛り込まれている。
――最終決戦でのアクションは特に印象的ですよね。
小西:紅蓮聖天八極式との戦いですね。戦いの終盤では天空要塞ダモクレスでナイトメアフレームらしい地上戦を展開するのですが、それこそロボットを飛び越えてスザクと紅蓮に乗るカレンが直接ぶつかり合うような肉弾戦、このすごい派手なシーンのイメージを立体でどう表現すべきか、劇中のポージングを再現するにはどうすべきかを考えました。
――紅蓮聖天八極式はすでにDRAGON SCALEでリリースされていますよね。
小西:ぜひランスロット・アルビオンと並べて飾っていただきたいですね。紅蓮と2機が並んでいることにどれだけの意味があるか、私もずっと『コードギアス』が好きで商品に携わってきたので、ユーザーさんにも感じてもらいたいです。紅蓮は谷口悟朗監督がおっしゃったデザインのキーワード「暗黒大将軍」をアレンジの方向性として禍々しさを強調しています。対してランスロット・アルビオンは、やはり騎士然とした、ブリタニアを代表する円卓の騎士“ナイトオブラウンズ”を想起させる正統派のヒロイックな甲冑らしいデザイン。デザイン的には正反対な2機ですが、並び立つ世界観としては違和感なく、コンセプトの違いも含めて、受け入れていただけると思っています
――これまでランスロット・アルビオンはROBOT魂やMETAL ROBOT魂でも立体化されていますが、意図的に差別化した箇所はありますか?
小西:2018年発売のMETAL ROBOT魂のランスロット・アルビオンは私が開発担当でした。それこそメカデザイン、メカ作監の中田栄治さんに監修していただいて、劇中のランスロットらしいフォルムを徹底的に追求できたと思っています。当時、「コードギアスシリーズ」のダイキャスト仕様の塗装済み完成品としては初の試みだっただけに、自分の中で最高峰を落とし込んだつもりです。ただ、すでに5年が経ちました。劇中のデザインをそのまま立体化するにも限界がある一方、塗装も含めて技術も進化していくなかで、そこをDRAGON SCALEならではの表現でいかにアレンジするか。今回はアニメーションならではのアクション表現をメカニックとしての説得力をもたせながらいかに再現するか意識しました。METAL ROBOT魂も自信をもって世の中に送りだしていますが、今回のMETAL BUILD DRAGON SCALEはひとつ飛び越えた表現、ギミックの遊びざまなどの面白さを感じてもらえると思います。
▲劇中設定の再現を重視したMETAL ROBOT魂(左)と今回のDRAGON SCALE(右)のランスロット・アルビオン。サイズも含めて、それぞれアプローチの違いが立体として現れている。
――ある意味、劇中再現の最高峰がMETAL ROBOT魂版なら、今回は現在の技術進化を感じられるトイ的な最高峰と言ってもよいでしょうか?
小西:そうですね。公式設定と劇中の印象を深堀し新しい魅力を打ちだせるようアレンジを取り入れています。まさに立体物としての最高峰のランスロット・アルビオンをユーザーさんにお届けできると思います。
▲ランスロット・アルビオンのセット一式。エナジー・ウイングや武装、さらにディスプレイベースも付属する。
――DRAGON SCALEでの「コードギアスシリーズ」の今後のラインナップについてはいかがですか?
小西:もちろん、自分自身コードギアスが好きで入社した身ですので、しっかりと考えています。ただ、ナイトメアフレームはアンケートの票がかなり割れるんですよね。商品が届いた際にはぜひアンケートに答えていただけると嬉しいです!今、すごく拮抗しているメカもあるので、ユーザーさんの声を聞きながら盛り上がる商品の展開を心がけていきます。
小西諒
■PROFILE
BANDAI SPIRITS コレクターズ事業部所属。これまでMETAL ROBOT魂、METAL BUILDでガンダム、エヴァンゲリオン、ダンバインなどのロボットフィギュアを数多く担当。「おもちゃ大賞2023年 ハイターゲット・トイ部門」を受賞した「超合金 ライガーゼロ」も小西氏が担当している。
画像はイメージです。
商品の画像・イラストは実際の商品と一部異なる場合がございますのでご了承ください。
発売から時間の経過している商品は生産・販売が終了している場合がございますのでご了承ください。
(C)SUNRISE/PROJECT L-GEASS Character Design (C)2006-2017 CLAMP・ST