――劇中歌「私は最強」の衣装をまとったウタについてお聞かせください。
金子:劇中歌「私は最強」はやはりウタのアイデンティティのひとつですからね。生き生きとした“最強最高のウタ”を作りたいと思い、この衣装になりました。 当初、版権元様から鎧姿のウタを提案されたこともあって、実はその時には「ご冗談でしょ」とビビって断っていて(笑)。大きいですからね。 ただ、実際にウタを立体化しようと思ったとき、メガハウスはほかの商品より後発ですし、P.O.Pでやる以上は他ではやれないような圧倒的なものを目指しました。まぁ、最初断った自分も正しいと思うんですけども、結局、“最強のウタ”を決断した自分も正しいなと思っています(笑)。
▲『ONE PIECE FILM RED』より“四皇”赤髪のシャンクスの娘で、世界の歌姫ウタを黄金の鎧をまとった姿でフィギュア化。全高約29cm、全幅約37cmの大ボリュームで圧倒的な存在感を放つ。
――ウタの商品化はどのように決まったのでしょうか?
金子:実際に映画を観て……ですね。特に2回目以降、ウタのキャラクターが分かってから観ると、彼女のすべての行動にすごく感動してしまって「ウタの生きた証を最高のカタチで残したい」と思い始めちゃったんですよ。
――ゴールドの鎧はとても印象的ですよね。
金子:まさに“金ピカ”の鎧ですが、鎧とウタ本体の差別化みたいなところも表現したかったんですよね。鎧も武器もゴールドですが、単調にならないようにそれぞれ各部の光沢やツヤなど質感を変えています。ゴールド、シャンパンゴールド、赤身のあるカッパーゴールドなど同じゴールドでも様々な見え方になるように調整しています。
▲王冠や武器、鎧は単色のゴールドではなく、部位の光沢や色味を使い分けることで質感を演出。
あとはウタがまとっているマントですね。マントも鎧に負けずにボリューム感があって、かなりディテールが入っています。ただ、迫力は欲しい反面、やはり軽やかに飛んでいるイメージを損なわないように意識しました。“軽さ”の演出としては、クリアー素材を採用し、先端につれて透明感が出るように塗装を施しています。
▲羽毛のマントは軽さを演出するため、クリアー素材をグラデーション彩色を採用。バーニア下はシャドウ、先端部は明るく薄く塗装するなど、動きや質感を細部まで表現している。
――実際、どれくらい色数を使っているのでしょうか?
金子:色数はなかなか言えないところはあるんですよね。ただ、シリーズのシンプルなアイテムでも彩色と組み立てで1000工程くらいあって。ウタはそれ以上の工程が施されています。
――造形面ではいかがですか?
金子:やはり顔が可愛いかどうかは大切ですよね。それで大体8割、9割は評価が決まっちゃう(笑)。ウタは可愛く、そして“かっこいい”というところを狙っていますね。 みんなのアイドルなので、男女関係なしに好感をもってもらえるように気をつけました。 版権元である東映アニメーションさんからもこの点を特に意識された監修をしていただいた印象がありますね。
▲フィギュアは顔が命! かわいい、かっこいいはもちろん、劇中の強い意志も感じさせてくれる。
――みんなから愛される歌姫のイメージを大切に…ということですね。
金子:そうは言いながらも、女の子フィギュアとしての見映えも決して悪くないように考えました。なのでレオタードっぽいところも見せ場なんですよ。 スカートとニーソックスの間の“絶対領域”ってわけではないのですが、この辺りの見え方はかなり悩みましたね。そもそも女の子フィギュアも男性フィギュアも、やはり“色気”がないといけないと思っていて。 それはエッチな意味でなく、色気=魅力なんです。キャラクターの持つ魅力を増幅させたのが色気だと思っています。ウタに関しては、かっこいい、可愛い、そして色気が共存できるはず。もちろんそのバランスが崩れてしまうと、変な感じになってしまいますが、 今回、このバランスを崩さずに表現できました。
▲鎧とレオタードの間にできた“絶対領域”。女の子フィギュアとしての魅力も、盛り込まれている。
――P.O.Pと言えば、いろんな原型師さんが手掛けていますよね。
金子:今回はゆうぼんさんにお願いしました。まだ若い方でP.O.Pの担当アイテムは、おでんが最初で、最近だとヤマト、サボ、エネルの原型製作を担当されています。 それこそP.O.P歴は長くないのですが、私にはない感性で応えてくれる部分があって、まさに新時代の若い感性を取り込みたいなと思ってゆうぼんさんを起用しました。彩色の方はt2yさんで、ゆうぼんさんとはヤマト、エネルでもコンビを組んでいます。それこそベテラン勢とはちょっと違う感性で、P.O.P MAXIMUMの可能性を広げてくれています。
――造形的な見どころについてお聞かせください。
金子:実は背面のブースターですが、設定では詳細な情報がなかったんですよね。。ただ、劇中、一瞬だけ飛び上がるシーンのときにチラっと背面が映るんですよ。そのシーンを何度も見返して、劇中の確認はかなり綿密にやっています。
▲劇中で一瞬だけ登場したバーニア内部も、しっかりと再現。噴射によりマントの一部が焦げているなど、細かな表現も見どころのひとつ。
――ポージングに関してお聞かせください。
金子:今回のウタのポージングは作者である尾田栄一郎先生のラフ絵をモチーフにしていますが、設定上は腕部にガチっと装着する盾をあえて手で持たせています。 これは内側を見ていただかないとわからない箇所ですね。 腕に装着すると、立体ではせっかくの盾のロゴデザインなどが見えづらくなったり、なかなかポージングが難しくて。でも、尾田先生とお会いしたとき、手持ちでもよいか相談させていただいた結果了承いただき、P.O.Pではこの持ち方になりました。 実際、盾の持ち方を変えたことで、ウタのポーズに動きも出ましたし、ロゴデザインもしっかりと見えるようになって。まさにP.O.P.ならではのウタになったと思います。
▲盾は本来、小手部分に固定される設定だが、手持ちへと変更。固定用のベルトもしっかりとパーツ化。一見、見えない場所も、こだわりの造形にて再現されている。
――盾のロゴデザインもしっかり凹凸のあるディテールで再現されていますよね。
金子:タンポ印刷やデカールだとベタっと平面的で急に安っぽく見えてしまうので、それはやりたくなくて。皆さんがP.O.Pに期待していことは手を抜かないところだと思いますので、そこの期待に応えないといけないので。それと、作者である尾田先生の期待に応えられなかったらP.O.Pをやる意味がない。それこそ、もし尾田先生に「これ良くないね」とか言われてしまったらP.O.Pはもうおしまいかなと思っていて。ファンの皆さんや尾田先生を裏切らないように頑張っています。
▲盾のロゴデザイン再現もこだわりのひとつ。立体的にディテールが施されている。
――企画開発担当ならではの “推しポイント”はありますか?
金子:やはり大型アイテムは自立させることが大変なんですよ。今回は原型師さんからアイデアをいただいたのですが、虹のような五線譜で保持することで、こんなに大きいのに宙に浮いているイメージでディスプレイできるんです。この浮遊感をぜひ見ていただきたいですね。
▲五線譜により浮遊感のあるディスプレイを実現。五線譜は音符パーツで劇中イメージを演出。
――台座というよりエフェクトみたいですよね。
金子:劇中「私は最強」のライブシーンでウタが手からビューンと放つ五線譜をイメージしています。本体に負けないボリューム感で音符なども付いていますが、主張しすぎない、フィギュアを見たとき真っ先にウタが目に入り、全体を見たときにディスプレイに気づく、みたいな。台座がフィギュアの邪魔をしないことは大事なポイントだと思っています。
――本当に大きいですが、安定感はいかがですか?
金子:実際、土台と五線譜はしっかりと固定されています。見映えとしても、見えないところで本体が保持できています。「追加で支柱が…」みたいにならないようすることは開発としての腕の見せ所だと思っています。このあたり「ちょっと苦労したんだろうな」と思って見ていただけると嬉しいかな。でも、最終的に製品で透明な支柱が一本立ってるかもしれないですけど(笑)。 普通に飾るには問題ないのですが、年単位の長い期間飾っていただけるP.O.Pファンの方もいらっしゃって。本当にありがたいことですので、そのあたりも検討させていただきます。もちろん、ちょっと飾って、そのあと収納していただく分には問題ない保持力がありますよ。
▲五線譜はマント内や足などを固定。浮遊感がありながら、安定感もある。
――見えない箇所へのこだわりも強いんですね。
金子:私自身も『ONE PIECE』が大好きなので、やはり買ってくれる方をがっかりさせたくはないんですよね。喜んでほしいので。
――キャラクターとしてのウタも魅力的ですよね。
金子:世界で一番人気のある歌手がウタじゃないですか。老若男女はもちろん、国籍問わず、 それこそ世界中の人たちが歌に感動して、みんなが「ウタの歌を聴きに来ました」って。あの感じは本当に理想中の理想ですけど、実現することは難しい。でも、そこに少しでも近づけるようなフィギュアにしたかったんです。 なので「男性ファンだけ見てください」みたいな感じになると、それはウタじゃない。 「ワンピース “RE-MAXIMUM” ウタ〜私は最強〜」は、本当に“誰もが好きなウタ”になってほしいなと。もちろん「このウタは違う!」と感じるファンもいらっしゃると思うんですけども、それは次の課題として。その声があれば「より愛されるウタを作る」という宿題をもらったと思って頑張ろうと思います。
――先日、フィギュアイベント「メガホビEXPO2023 It's SHOW TIME!!」でお披露目しましたが、その際のファンの反応はいかがでしたか?
金子:彩色状態をようやく皆さんに見ていただきました。昨年末にフィギュア化を発表してから約半年以上お待たせしましたが、画像ではわらかないボリューム感なども知ってもらえて、想像よりも大きいと思った方もいたようです。小さいと思った方はいるのかはわからないですけど(笑)。本当に期待していただいた方もいらっしゃって、かなり反響は良かったです。
▲8月に開催されたイベント「メガホビEXPO2023 It's SHOW TIME!!」ではウタの彩色見本を初展示。大きな話題となった。
――今回、ようやく受注がスタートとなります。
金子:お待ちいただいたファンの皆様にも、ちゃんとご期待に応えられる商品になったと思っています。フィギュアはやはりエモくないとほしくないでしょうし、ウタはまさにエモいキャラです。劇中もウタの想いや目的がわかると、すべての行動が泣けちゃう。そんなウタの生き生きとした、勇ましい、輝かしい姿を一番かっこいい形で表現したのがこの“最強”です。この想いが伝われば、きっと皆さんも“エモい”と感じていただけると思っています。
金子浩樹
■PROFILE
メガハウス所属プロダクトオペレーションズプロデューサー兼シニアエグゼクティブプロデューサー。2004年の誕生から現在に至るまで、P.O.P(Portrait.Of.Pirates)シリーズの企画・開発を担当。来年20周年を迎えるP.O.Pは現在300以上のラインナップを誇り、そのほとんどを金子氏が手掛けている。
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(C)尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会